建設業におけるアカウンティング(会計)の考え方と活用の着眼点
- 資本政策・財務戦略

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建設業は、他の業種と異なり、個別の工事を受注し、長期間にわたり施工を進める点が特徴です。工事期間は数カ月から数年に及ぶことが多く、作業の進捗に応じて費用が発生するため、売上計上のタイミングも複雑になりやすいのが実情です。そこで、こうした建設業特有の取引の特性や契約形態に対応するため、「建設業会計」と呼ばれる独自の会計処理の枠組みが整備されています。
「建設業会計」とは
一般企業では、商品やサービスを提供した時点で売上を計上します。一方、建設業では工事が完了するまでに多額の原価が発生し、会計期間をまたぐケースが多く、収益と費用の対応関係を適切に示す特別な会計ルールが必要となります。
そのため、建設業会計では工事進行基準に基づき、工事の進捗状況に応じて売上や利益を計上する手法が用いられています。
また、工事原価台帳を活用して、工事ごとに発生した原価を詳細に把握し、管理します。
このように、建設業会計は単なる会計処理にとどまらず、工事の採算管理や資金繰り、経営戦略の判断にも直結する重要な経営インフラです。経営者にとっては、数字を作るための仕組みではなく、経営の意思決定を支える仕組みとして理解することが求められます。
建設業会計と一般会計の違い
(1)売上計上基準(収益認識基準)の違い
建設業会計の最大の特徴は、売上高の計上方法にあります。
一般的な製造業や小売業では、製品の納品または販売の時点で売上高を計上しますが、建設業では工事進行基準と工事完成基準という2つの方法が用いられます。
従来は、工事がすべて完了した時点で売上高を計上する工事完成基準が広く用いられていました。
しかし、国際的な会計基準の動向や、長期工事の実態を踏まえ、現在は工事進行基準が原則とされています。
工事進行基準では、工事の進捗度に応じて売上高を計上します。
例えば、契約金額が10億円で、その期の進捗度が60%であれば、当期の売上高は6億円となります。
この進捗度の算定には、累計原価を見積総原価で割る方法や出来高基準などが用いられます。
この方法により、収益と費用を期間的に対応させることができ、実態に即した業績を把握できます。
ただし、見積総原価や進捗率の算出が経営成績に直結するため、現場と経理部門が密に連携し、正確な原価情報を把握・管理する体制が欠かせません。
経理部門からこれらの情報の提供を求められた際は、消極的にならずに、円滑に協力する姿勢が重要です。
(2)原価の計算方法の違い
建設業では、製造業のように製品単位で原価を集計するのではなく、工事単位で原価を把握します。
つまり、各工事を1つの独立したプロジェクトとして扱い、工事原価台帳を用いて原価を管理します。
原価には、材料費、労務費、外注費などの直接費と、現場共通の経費や事務所経費などの間接費が含まれます。
これらを工事ごとに適切に配賦することで、正確な採算を把握できます。
この原価管理の精度が高いほど、見積段階での採算判断の精度も高まり、赤字案件の早期発見につながります。
したがって、経営管理上は、見積原価、実行原価、実績原価の3層構造でモニタリングを行うことが有効です。
(3)勘定科目の違い
建設業特有の勘定科目として、未成工事支出金、未成工事受入金、工事未収入金などが用いられます。
これらは、工事が進行中であることに伴って発生する、未完了の工事に係る資産と負債を示す勘定科目です。
例えば、工事に伴い発生した費用は、未成工事支出金として資産に計上されます。
一方で、発注者から前受金を受け取った場合は、未成工事受入金として負債に計上します。
これにより、工事が進行中であっても、資金の流れと損益を区分して管理できます。
・未成工事支出金:工事進行中に発生した材料費、外注費、人件費などの原価を集計する資産勘定
・未成工事受入金:工事代金の前受金を処理する負債勘定
・工事未収入金:進行中の工事に関して、まだ請求または回収されていない売上高を示す資産勘定
・完成工事原価および完成工事高:工事が完了した際に、費用と収益を確定するための勘定科目
これらの科目を正しく理解することは、工事の採算や資金繰りを正確に把握するための前提条件です。
特に、未成工事支出金と未成工事受入金のバランスは、資金繰りの安定性を示す重要な指標となります。
建設業の管理会計が難しい5つの理由
ここまで、制度としての「建設業会計(財務会計)」の特徴を解説しました。しかし、建設業で利益を最大化し、経営を強くするには、社内の業績管理を目的とした「管理会計」の仕組みが欠かせません。
建設業は「個別受注生産」であり、利益の源泉は各現場案件ごとの採算にあります。以下では、建設業特有の管理会計の課題を整理し、改善に向けた着眼点を示します。
(1)案件ごとに原価の構造が異なる
建設業は、同じ案件が一つとして存在しません。建物の規模や地盤条件、施主の要望、協力会社の調達状況などにより原価構造が大きく変動します。
そのため、"標準原価"を使って生産効率を測る仕組みが機能しづらくなり、結果として管理会計が「過去データの積み上げ」、「担当者の勘と経験頼り」になり、改善サイクルが回りにくい傾向があります。
(2)工事進行基準による収益認識の複雑さ
建設業における収益計上会計方法として、工事を進めながら、進捗割合に応じて収益・費用を計上する「工事進行基準」と、工事の完成、引き渡し時に収益・費用を一括計上する「工事完成基準」の2種類があります。
建設業では工期が半年を超え、数年に及ぶこともあることから、タイムリーな損益情報を掴むために「工事進行基準」を採用するケースが多いです。
しかし、進捗率は担当者や技術者の主観が入りやすく、実績値と見込値が乖離し、精度が安定しないことが多いです。
(3)現場の判断が損益に大きく影響する
建設現場では、天候や地盤の状況、協力会社の稼働状況など、予期せぬ事象が発生します。その際には、現場監督が即断即決で対応する必要がありますが、この判断が「数十万円〜数百万円のコスト差」を生むことも少なくありません。
管理会計で管理したい変動要因の多くが現場に集中しているため、本社にて管理会計における情報をリアルタイムに反映できないことがあります。
(4)協力会社とのコスト連動性が強く、見積精度が難しい
「多重下請け構造」である建設業においては、協力会社への外注費(労務単価・資材費・稼働状況)が原価の大半を占めるケースが多くあります。
その結果、市況の変動や協力会社の都合によって見積り段階と実行段階の原価が大きくズレることがあり、この"ズレ"が案件の収益を圧迫し、案件ごとの予実管理をより複雑にしています。
(5)部門横断での情報共有の難しさ
営業、設計、積算、施工管理、購買など、建設業におけるバリューチェーンは長いため、各部門が持つ情報が「縦割り」で、案件の全体像が把握しにくい点があります。
特に、積算と実行予算のギャップが見えないことが多く、原価の見える化が遅れてしまうことが多いです。
管理会計の精度を高めるための改善ポイント
(1)「見積→実行予算→実績」の一貫管理を徹底する
建設業の管理会計の軸は、①見積原価、②実行予算、③実績原価の三点のずれを抑えることにあります。
・見積段階での根拠をデータとして蓄積
・実行予算の作成過程を標準化
・外注費・材料費の発注単価をデータとして管理
・実績の入力を日次レベルへ近づける
というプロセス改善が、プロジェクト採算の精度を飛躍的に高めていきます。
ある会社では、見積時と完成時で10%以上の利益差異が生じた場合には「物件反省会」を実施し、組織・担当者の見積から実行までの見通しのレベルを高める施策を打っています。
(2)現場所長の「数字を扱う力」を育成する
多くの現場所長は技術力には優れておりますが、計数面、特に財務に関わる理解が弱い側面があります。
しかしながら、建設業の採算は現場判断に大きく依存するため、現場こそ「財務の意識」を持つことが非常に重要です。身につけるべき財務スキルは主に以下の四点です。最小限の財務リテラシーを兼ね備え、判断基準を持ち合わせることで、現場判断の質は大幅に向上します。
・原価率、粗利率の見方
・追加工事の利益インパクト
・手戻り・やり替えが与える損益影響
・労務歩掛の基礎理解
(3)プロジェクトのリスクを事前に「定量化」する
建設業は外部環境(天候や協力会社状況)によって工期や収益が変動するケースが非常に大きいです。そのため、見積段階にて想定されているリスクの洗い出しと金額への織り込みが実行利益を左右します。想定されうるリスクは以下のとおりです。
・地盤リスク
・資材価格変動リスク
・協力会社確保リスク
・工期遅延リスク
・天候リスク
これらの発生可能性を「%」と「金額」で可視化することで、想定されるリスクに事前に備えられます。リスクの定量化に際しては、過去の現場経験や現在の外部環境を踏まえた想定をもとに、多面的に分析し、自社独自の基準を設ける必要があります。
(4)進捗・出来高の判断基準を標準化し、見込み利益の精度を高める
進捗率が、現場所長や担当者の経験や勘に頼る主観で決まると、月次の利益が変動しやすくなりがちです。そのため、出来高評価基準を標準化し、出来高判定の誤差を最小化する仕組みが必要となります。下記のようなアプローチにより、工事進行基準の精度を高めることが見込めます。
・工程ごとの単価設定
・作業量と出来高の紐づけ
・写真やドローンによる進捗確認
・出来高判定のチェックリスト化
(5)現場から本社への情報伝達を「リアルタイム化」する
建設業の管理会計を阻む最大要因は「情報が遅れて上がってくる」点にあります。
・外注契約の締結遅れ
・資材発注の反映遅れ
・日報・原価入力の遅延
・追加工事の報告遅れ
これらが重なると、実績利益が数か月遅れて判明するような事態になります。
デジタルツールによる現場入力の簡素化、PDF図面の自動読み取り、日報のモバイル化など、現場負荷を軽減しつつ情報のタイムラグをなくす「建設DX」のような施策を展開することも必要です。
このように管理会計の精度を高め、現場レベルでの収益性を改善することは、会社全体の資金効率を高めることにも直結します。近年、建設業界において重要視されている「資本コスト経営」の観点からも、現場の採算管理は非常に重要なステップとなります。
建設業界における資本コスト経営
近年、建設業界においても資本コストを踏まえた経営の重要性が高まっています。
これは、企業が調達した資金に対して、どの程度のリターンを生み出しているかという視点で経営を評価する考え方です。
建設業では、受注時に多額の資金が必要となり、完成までの期間が長いため、資金の回転効率が経営の健全性を大きく左右します。
そのため、ROIC(投下資本利益率)やWACC(加重平均資本コスト)などの指標を活用し、資本効率を評価することが有効です。
例えば、ある工事案件に10億円の投下資本が必要で、完成後に得られる営業利益が1.2億円であれば、簡易的にはROICは12%となります。
このとき、企業の資本コストが8%であれば、4%の超過リターンを確保している状態であり、資本効率の高い案件と判断できます。
一方で、ROICが資本コストを下回る案件は、見かけ上は利益が出ていても、資本を毀損している可能性があります。
つまり、売上高が伸びていること自体が良い案件を意味するとは限らず、限られた資本をどれだけ効率的に活用できているかを重視する姿勢が求められます。
さらに、近年はESGや脱炭素の観点からも、資本コストを踏まえた投資判断の重要性が高まっています。
例えば、省エネ設備の導入や再生可能エネルギー関連工事への参入など、初期投資は大きいものの長期的なリターンが見込める分野では、資本コストを踏まえた中長期的な視点での経営判断が欠かせません。
まとめ
建設業会計は、単なる特殊な会計処理にとどまらない、経営を支える重要な管理手法です。
工事進行基準による収益認識、工事別原価計算、独自の勘定科目などの理解はもちろん、それらを経営に活用することが本質です。
建設業における業績マネジメントは、会計部門だけで完結するものではありません。採算を左右する情報は営業や積算、施工管理といった現場に散在しているため、「現場と経営をつなぐ連携」こそが鍵となります。そのため、数字の正確性以上に、意思決定に役立つ迅速な情報共有が求められます。
経営者や管理職が意識すべきポイントは、次の3点です。
①収益と原価の見える化
工事ごとの採算性を可視化し、赤字リスクの早期発見につなげます。
②資金と損益の一体管理
未成工事支出金や未成工事受入金などを通じて、キャッシュフローと損益の両面を管理する仕組みを整える必要があります。
③資本コストを踏まえた案件選定
売上規模ではなく資本効率を基準に案件を評価し、持続的な企業価値の向上を目指すことが大切です。
建設業界は人手不足や原材料の高騰など、厳しい環境に直面しています。
しかし、会計情報を単なる過去の記録ではなく、未来を切り開く経営情報として活用できる企業こそ、変化に強く、持続的に成長できる企業です。
建設業会計の理解と実践は、経理担当者だけでなく、現場監督や営業、経営層を含む全員に求められる重要なスキルです。
数字を経営の言葉に変えることで、建設業の未来はさらに明るいものになります。
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